元気を与えられるなら

2015年4月29日 水曜日
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東日本大震災はたくさんの人々の人生観を変えた。金子正広さんもそうだった。自分の人生を振り返り、やがて訪れる死をも見つめた。
 いろいろ考える中で一番悩んだのが今の生活だった。会社と家の往復だけで一日一日が過ぎてゆく。それでいいのだろうか…。
 
「それから数カ月後、会社で千葉のマラソン大会に出場することになったんです。人生で1回ぐらいこういう経験をするのも悪くないと思い、参加を決めました。これっきりのつもりでした。それがもう散々な結果で…。スタミナ切れでジグザク走行するわ、多くのランナーに抜かれるわ、とにかく自分自身に腹が立ちましたね」
 なんとか完走はしたが、悔しくて仕方なかった。一晩寝ても解消することはなく、翌日には早くも次のレースに申し込んだ。
この行動こそがマラソンに生き甲斐を見いだすきっかけとなった。以来、大会には幾度となく出場するようになり、練習も月に200~250kmを走ることを目標としている。
 
 そんなあるとき。知り合いからこんな話しを聞いた。
被災地の方々が、市民マラソンのランナーから勇気をいただいている。沿道で頑張れ、頑張れと応援しながら、実際はその方自身が励まされているのだと。
 被災地のために何ができるのか。震災以来、自分の人生を考えるときは、いつもそのことが頭から離れなかった。自分の生き方に新たな道を与えてくれたマラソンで、被災地の方々に元気を与えることができるなら出場するしかないだろう。
 
 金子さんはすぐさま『いわきサンシャインマラソン』の出場を決めた。
 
「最初からタイムや順位にはこだわるつもりはありませんでした。“手を振って笑顔で”をテーマに、沿道の人たちに声をかけてハイタッチしながら走りました。子どもたちが楽しそうに手を出すんです。ポンと叩くと喜んでくれてね。漁港近くになると『ドンドン』と太鼓の音が聞こえてきて、大漁旗もたくさんなびいていて、うわーすごいなあと思いました」
 町一丸となって盛り上げるパワーが、金子さんに来て良かったと思わせた。
 
 スタートから1時間後、雨が降ってきた。雨のレースは金子さんにとって初めての経験だった。
「次第に靴の中が濡れてきて、中で足がズルズル滑るようになってきたんです。やがて指にまめができてしまい、32km付近から痛くなって大変でした」
 被災地の方々に元気を与えようと思って参加したのに、顔をしかめて走るわけにはいかない。金子さんは痛みを隠して最後まで笑顔でいた。
 
「ゴールした瞬間は、胸いっぱいの気持ちでした。いろんな人に『頑張って』と声をかけ、『あなたも頑張ってよ』と言われました。ランナーは沿道の応援で力をもらって完走できるものなんだと、改めて思いました。」
持ちつ持たれつ。そんな関係性がピッタリはまる大会だった。
 
 金子さんが見た被災地は、復興半ばという感じだったという。
「大変な中で力強く生きている人たちがたくさんいます。日々頑張っている方々に少しでも元気を分け与えられるなら、何度でも『いわきサンシャインマラソン』に出場します」
 
 自分のすべきことを見つけ出した金子さんは今、充実感を感じながらますますマラソンにのめり込んでいる。
 
(文責:ライター金子塾 滝沢)
 

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